今年で 4回目となる公式行事・国際デザインシンポジウムを 2016 年 3 月 9日(火)に京都リサーチパーク・サイエンスホールで開催した。今回のシンポジウム テーマは、昨年と同様に「デザイン学の体系化・実装」であり、教育(人材育成)、 研究、社会連携とに関連した講演(前半)、パネルデスカッション(後半)を設定した。以下に内容をまとめる。
【講演セッション】
(1) 椹木哲夫教授より、京都大学デザインスクールの概要と国際デザインシンポジウムの過去の経緯、デザイン学スクール履修生の評価結果、デザインコンソーシアムの役割などの紹介があった。
(2) Gloria Mark教授(University of California, Irvine)より、"Precision Data Tracking: Understanding Human Behavior for Design"と題する講演があった。Gloria教授は心理学の手法とセンサーを用いたデータ解析を組み合わせて、人間のふるまいが、デジタル環境でどのように変化するかを実生活の中で分析するというユニークな研究を行っている。被験者にセンサーを装着してデータを集めるとともに、行為に対する集中、満足といった情報を記録させて、人間のふるまいとMoodについて分析を行い、デジタル環境での集中の難しさや、マインドのオープン・クローズの切り替えの特徴明らかにしている。
(3) 神吉紀世子教授(京都大学工学研究科建築学専攻)により、地域の環境保護や再建をその土地に密着しながら扱う際の経験について、インドネシアのジョグジャカルタの市街地コタゲテの地震後の生活の復興と産業の再建、インドネシア・ボロブドゥールにおける環境保護活動、バリのインターンシップフィールドスクールを例に説明があった。ジョグジャカルタでは現地の天然の染色の専門家によるワークショップが新しい伝統産業を生み。ヨーロッパに製品が輸出されている。また、コタゲテでは銀の工芸品のアーティストに対して、直接に発注をかけるシステムが創成された。ボロブドゥールでは、寺院が世界遺産認定後に観光の波と世界遺産管理委員会の法との軋轢の中で、地域に内在する多様な価値と世界がクローズアップした価値との葛藤がおこった。フィールドスクールは、ネットワークに発展する一つの方法であること、また保全活動を通じて異なる価値(宗教など)を共有できる可能性が示唆された。
【パネルデスカッション】
石田亨教授(京都大学)の司会の下で3名のパネリストSylvia Pont教授 (Delft University of Technology)、白坂成功教授(慶応大学システムデザイン・マネジメント研究科:SDM)、十河卓司 准教授(京都大学)から、それぞれの教育組織・教育法の概要説明があった。
Delftでは、基礎研究からデザイン実践までを統合するシステムによりπ型人材を育成する。博士課程の学生にはまず基礎を固めさせ、学位を取る期間を4年と設定し、これをプロジェクトと連動させている。環境としてはサウンド、ライト、ビジョン、マルチセンサ、身体工学、マテリアルと充実した研究環境を与えている
慶応大学SDMは150年記念事業で設立され、複数の専門家をたばねるのではなく、横ぐしをさすシステムズエンジニアリングとマネジメントを教育することを目指している。学生は俯瞰と系統、多視点からの構造化、思考の流れの制御を実践し、ビジネス、組織、コミュティのデザインを行う。テーマは、実際の企業や公共団体のプロポーザルから選び、チームプロジェクトが進行する。学生の参加形態もタイプ1~3の段階に進行し、ツールを通じたマインドセットとモチベーション獲得を促している。
京都大学のデザイン学スクールでは、専門性を持ちながらデザインができる十字型の人材育成を目指し、デザイン共通科目の履修、異領域に属する学生・教員が参加する実習とともに、所属研究科の基礎科目と他専攻の基礎科目の取得も履修生に課している。また、学外の機関と3日間のプロジェクトを行うサマーデザインスクール、沖縄・香港でのデザインスクールなど社会・地域・国際連携教育の仕組みがあり、参加者の評価が高い。履修者がファシリテータを経験するフィールドインターンシップ、実問題を解決するリーディングプロジェクトと段階的に活動を拡張していく仕組みになっている。
モデレータの石田教授から「学生からのアイデアをつないでいくシステムがあるか?」という質問があり、慶応ではデザインプロジェクトを通じて社会的な還元があること、また社会人学生が行うリサーチ自体に還元性あること、Delftでは、企業・業界が研究資金を提供しながら共同研究という形態で行われていること、京都大学では、企業とのコンソーシアムがあり、それが活動の受け皿になる可能性があることが説明された。白坂教授からは、企業のテーマ提案を注意深く選定する必要性があるのでは?という質問があり、Pont教授から、学生のテーマとして適切か、ピロセスが適切かを学生にリーダーシップをもたせながら気をつけているという説明があった。また、Delftでは企業との間にはデザイン関する新しい技術に関してのプロジェクトが多くなっている傾向があり、特に新しい考え方を生むことには産業界からは大きな期待がある。次に「純粋な学術的な結果をどのような研究者に伝えるか?」について石田教授から質問があり、Pont教授からは、Delftでは、どんな学術性があるか、どんなGenericなものがでてくるかについて調査し、政府系の基金が使われ、40年間の積み重ねで流れができていると説明があった。その点は日本ではたいへん苦戦をしていて、国際会議はあるが学術雑誌が少ないことが問題点としてあげられた。
【閉会】
松原実行委員長から、貴重な講演をいただいた講演者ならびモデリスト・パネラーへの謝辞が述べられ、閉会した。