Design Seminars

「Professional Design Camp 011」レポート


2050年のスマート “&スウィート” ライフ
~快適・便利・健康・安心、だけじゃない。新しい「しあわせのかたち」から考える2050年の暮らし~
開催日:2024年7月25日(木)午後(オンライン)、8月5日(月)~6日(火)(計2.5日)
会場:京都大学 百周年時計台記念館
参加人数:31名
ファシリテーター:井川勇氏(株式会社博報堂)

環境問題や食料安全保障、少子高齢化など、多くの課題を抱える現在の私たちは、近未来にはどんな暮らしを実現しているでしょうか。20○○年の未来を語る言説の多くがネガティブなものとなっている中、11回目となる今回のプロフェッショナル・デザインキャンプでは、2050年には現在の暮らしからは想像もつかないようなライフスタイルを実現しているのではないかという仮定のもと、“スマート(合理的)でスウィート(合理的でなくとも心地よく愛らしい)” なしあわせな暮らしを未来洞察の手法を用いてデザインしました。

PRE 7月25日(木)14:30~17:30(オンライン) プレミーティング

今回2.5日にわたって開催されたプロフェッショナル・デザインキャンプには、多様な企業の研究職やデザイン職、学生などさまざまな組織に所属する31名が参加。未来洞察のプロセスを学び、2050年の“スマートでスウィート”な暮らしを叶えるヒントを持ち帰ってもらうこと、そして異業種交流のきっかけとなるシナジーを生むことを目的としています。
オンラインで行われたプレミーティングでは参加者をA〜Fの6グループに分け、ブレイクアウトルームに分かれて参加者同士の自己紹介をした後、京都大学 人と社会の未来研究院長の内田由紀子先生より「未来社会の『しあわせ』を考える」と題したインプット講義をいただきました。

文化心理学を専門とされる内田先生は、人間の心理・行動傾向と、人が集合的に作り出す「文化的意味」の循環メカニズムの解明に取り組まれています。内田先生によると、人生100年時代のもとで健康寿命や新たな働き方への問い、多様な世代の自立と共生などさまざまな課題を持つ現在、「ウェルビーイング」に価値を置き始めている企業が増えているとか。この「ウェルビーイング」とは、心の充足や生活への評価、感情、価値、健康まで含めた「良い状態」のことを意味しており、ハピネスの概念よりも包括的で、「個人」だけでなく「場」(メゾレベル)が持続的に良い状態であることと捉えられています。「個人のしあわせは誰かのふしあわせにつながりかねません。しかし、ウェルビーイングには、『今が楽しい』という個人的なしあわせだけでなく、地域や学校、世界をよくするという利他性、公共性、持続性のある状態が含まれています」と、ヘドニア(感覚的快楽・心地の良いしあわせのこと)、ユーダイモニア(自己実現や生きがいを感じることで得られるしあわせのこと)というキーワードを示しながら、今後はウェルビーイングの場をデザインし、計測・フィードバックする仕組みを作る必要があるというお話がありました。

DAY1 8月5日(月)9:30~17:30 未来洞察インプット&課題の抽出

会場を京都大学百周年時計台記念館に移して行われたDay1では、プレミーティングでのインプットを振り返りながら、新しいしあわせのかたちをデザインするための、アイデア創造のプロセスを学びました。
「内田先生から『メゾレベル』というお話があったように、今回のワークでは、個人だけでなく場のしあわせをいかにデザインできるかということがポイントになります。しかし、インプットした情報を全て肯定してアイデア創造を行うのではなく、あくまでも情報の1つとして捉えて進めていきましょう」とファシリテーターの井川さん。時代とともに規範意識や習慣などが変わっていく中、“しあわせ”には「変わらないこと・変わること」があるということを意識して議論を進めていきました。議論の際には、社会課題、技術の進化、制度を変えるという話を起点にするのではなく、今回のテーマである「新しいしあわせ」とは何かということを起点にして未来を考えていきます。

アイデア創造のプロセスに用いるデザイン・シンキングの手法では、まずインプット等の情報への<共感>からスタートし、そこからどんな未来が考えられるかという<機会抽出><アイデア創出>、最後に事業やサービスとなる具体的な<プロトタイピング・テスト>を目指しますが、今回のキャンプでは<アイデア創出>までをゴールとし、最終的にアイデアのプレゼンテーションを行うことを目指しています。

《共感ワーク》
ここからは、事前に配布された課題資料1「未来予測と兆し」の感想をグループ内で共有することからデザイン・シンキングを開始しました。これは、グループ内で共通のマインドセットを作ることが目的の1つで、資料の中から「気になった未来の事象」「未来の生活にインパクトのありそうなもの」を個人で抽出し、その感想と「それによって起こる変化」を1つにつき1枚のポストイットに書き出すとともに、その中で特にインパクトの大きそうなものに印をつける作業を個人ワークで行いました。その後、それらをグループ内で共有し、ホワイトボード上にKJ法によってグルーピングする作業(青)を行いました。
続いて、事前に宿題として出された「あなたが考える『しあわせな未来生活』に近い情報」(記事、書籍、映画、研究など)の発表を行うとともに、発表の中から「未来のしあわせの兆し」と捉えた情報を各自でポストイットに記入し、とりわけ共感したエッセンス(要素)に印をつけていきました。再びグループ内で共有し、「未来の事象」と同様にKJ法によって分類(ピンク)をしていきました。
「未来の事象」(外部変化)と「未来のしあわせな兆し」(心理)のグルーピングが終わったところで、全体共有を行いました。

《機会抽出ワーク》
次に行われたのが、具体的な機会発見手法の1つである強制発想法「インパクトダイナミクス」です。前の作業で分類した青とピンクのポストイットをマトリクス状に並べ、「未来の事象」(外部変化)と「未来のしあわせな兆し」(心理)を掛け合わせたときにどんなことが起こるかを考え、議論を掘り下げていきます。井川さんからは「その際のポイントとなるのが、2050年の世界に行ったつもりで考えること。全てのマスを埋める必要はなく、実現しそうなものを直感的に選んで議論をしてください」というアドバイスとともに、事前のアンケートをもとにした各グループのテーマも発表されました。掛け合わせのポイントにグループテーマを重ねることで、より具体的な2050年に起こりうる機会を抽出していきます。Day1は、各グループで盛り上がったテーマがどんなものであったかを全体で発表したのち、意見交換を行って終了しました。

【A:テーマは教育・学び】
◯◯したくないコミュニティー
未来の環境を考える教育プログラム
世話をしてもらう仕事6年入れ替え転職
死後の人気職業は教師

【B:テーマは余暇・遊び】
バーチャル居酒屋
ペット・乳児の気持ちをデータ化
災害エネルギーでデジタルサーフィン
パーソナルドラえもん(人間味)
現世に極楽浄土を

【C:テーマは働く】
150歳以上の高齢者の余暇
デジタルメモリアルサービス
五感のデータ化で技術を後世に伝達
最適な生き方をリコメンドするゲーム
脳に相談AIを住まわせる

【D:テーマは家事】
デジタル上の高齢者労働支援
第三の親としての子育てロボ
望まないコミュニティに相槌ロボ
DINKSに子どもAIロボ

【E:テーマは子育て】
技術伝承AI
移動式託児所
高齢者支援ロボット
移動空間をプライベート空間に

【F:テーマは健康】
ギルドママ
診察につながるデジタルドクター
乗合自動運転
発電公園/発電歩道

DAY2 8月6日(火)9:30~17:30 未来生活のデザイン

最終日となるDay2は、インパクトダイナミクスを通じて抽出された未来生活の解像度を上げるためのペルソナワークからスタートしました。自分たちが描いた「2050年のしあわせな未来生活」の中心には、どんな主人公がいるのか。朝起きてから寝るまでのスケジュールなどを想像しながら人物像を固めていくことで、リアリティのある未来予測へとつなげていきます。「思い込みを排除することがペルソナ設計のポイントとなります。例えば2050年の定年は65歳とか、子育ては20〜30代の母親がするといった既成概念を取り除いて人物像を考えてみましょう」と井川さん。
ペルソナ設計後のワークは、ワールドカフェと呼ばれる情報交換を行いました。これは、グループ内に立てた2人の旅人に他のグループの発表を聞いてきてもらい、それらを自分たちのグループに持ち帰って役立てるというもの。5分間の発表機会を2度持つことで、他視点による情報から刺激を得るとともに他のグループからのフィードバックを得て、自分たちの未来デザインへのヒントにします。

《アイデア創造ワーク》
インパクトダイナミクスやペルソナ設計によって、「2050年のしあわせな未来生活」のイメージを描いてきましたが、この時点ではまだ抽象度が高いため、さらにイメージを具体化していくアイディエーションを実施しました。アイデアの内容は、新しい事業やサービス、商品開発など、形態は問いません。
「アイデアを考える際に、今回のテーマである“人や場のしあわせ”が頭から抜けた途端、技術主導、社会課題解決型の従来通りの解に落ち着いていきます。“今までなかった解”を生み出すために、ここまでインプットしてきた“しあわせのエッセンス”や“場のウェルビーイング”について、腹落ちするまでグループ内で議論を行ってください」という井川さんからの注意喚起のもとでアイディエーションを行いました。
アイデアが出揃った時点で、プレゼンテーションに向けての準備を進めます。プレゼンテーションは企画の柱となる7要素で組み立てるというルールのもと、イラストを交えた手書きの企画書を制作しました。

7つのアプトプット(企画書要素)
視点(what)
①アイデアコンセプト(短い記述で)
②しあわせな体験・生活(このアイデアで実現するしあわせな体験・生活シーン/ペルソナを活用)

なぜやるか(why)
③しあわせのエッセンス(なぜこのアイデアか?着目したしあわせのエッセンス/個人・グループの想い)
④つくりたい未来(このアイデアが作り出す個人のしあわせな暮らしや場における新しい関係)

だれがどう(who・how)
⑤関わってくるプレイヤー(実現のために必要な着目した生活者や企業)
⑥実現方法(どんな技術や制度、場やルールが必要か)

成果の測り方(result)
⑦しあわせの測定方法(もし測定するうならそれは何の指標か)

《プレゼンテーション》
今回のプレゼンテーションにあたっては、各グループの発表と同時にグラフィックレコーディングを実施。発表の内容が1枚の模造紙に可視化されることで、全体像が一目でわかるようになるという利点があります。
全グループの発表後、主観的な視点から「これは共感できる」「未来の自分も幸せになれそう」と思われるものに赤いシールを、また社会へのインパクトが大きく、「未来にとって絶対必要」「未来社会が幸せになりそう」と思われるものに青いシールを貼って投票したところ、赤はFグループ、青はEグループが最多となる結果となりました。

各グループのアイデアコンセプト
【A】教師ローテーション×デジタル守護霊 〜6年に1度教師になる世界線
【B】ゆる報恩システム
【C】リアル人生ゲームシミュレーション 〜政府による新サービス、遺伝子ベースの高度な人生設計支援
【D】コスパから子スパへ MYRAI(ミライ) 〜5歳児相当のAIロボット
【E】送り迎え不要! 保育園がやってくる HAAS(ハース) 〜選べる保育園
【F】VP(バーチャルペット)で始まる助け合いぬくもり圏

井川さんからは、「当初は利便性や効率など損得勘定の未来が多かった印象でしたが、思考がクリアになるとスマート&スウィートの意義をしっかりと感じてもらえたのではないか」という総括があったほか、参加者からは「これを日々の仕事にどう持って帰るかという葛藤があるが、無駄にしたくないのでどこかで活かしたい」「自分だけでは考えることがないような意見も含めて楽しく聞かせていただいた」「幅広い感想やインプットをもらうことができ、楽しく過ごせた」などの感想が寄せられました。

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