Design Seminars

「Professional Design Camp 010」レポート


“しあわせな”カーボンニュートラル 〜生活者の行動変容から導く、無理しない・やってみたくなる脱炭素なくらしとは?〜
開催日:2023年7月27日(木)(オンライン)、8月3日(木)~4日(金)
会場:京都リサーチパーク1号館4階、フィールドワーク(京都市内)
参加人数:25名
ファシリテーター:井川勇氏(株式会社博報堂)
テーブルファシリテーター:平石大貴氏、杉本奈穂氏(株式会社博報堂)

温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる「カーボンニュートラル」は世界の最重要課題のひとつです。日本では2050年までに排出を全体としてゼロにすることを目指していますが、生活者の負担も少なくないことから、実現には近づいていません。
そこで2.5日間にわたって開催された今キャンプでは、暮らしの中で「我慢」をすることなく、「楽しく、しあわせに」取り組むことのできる脱炭素アイデアづくりを、デザイン・シンキングのプロセスを用いて行いました。

PRE 7月27日(木)14:30~17:30(オンライン)

日本におけるカーボンニュートラルという言葉に対する認知度は世界的に見ても非常に高く、9割近くにのぼるそうです。しかしながら、実際にカーボンニュートラルに向けて何か行動を起こしている人はわずか3割程度に過ぎないとされています。「そのギャップを紐解くことがヒントになる」とファシリテーターの井川氏。
実際に今回の参加者へのアンケートでも「お金がかかる」「生活が不便になる」「どこか他人事と思っている」「何からやったらいいかわからない」など、実生活での取り組みに対するネガティブな意見が多く見られました。
こうした生活者の「負担」や「我慢」が前提になっている考えを一度取り払い、「便利で楽しくやってみた結果、環境にもプラスになる」という行動や行動を誘発する商品サービス、アイデアを考えるのが今回のプログラムの目的でもあります。

この日、オンラインで実施されたプレミーティングでは、「カーボンニュートラル実現に向けたサーキュラーエコノミーの役割と可能性」と題して、京都大学の浅利美玲准教授(京都大学大学院地球環境学堂/総合地球環境学研究所)からアイデアのためのインプット講義が行われました。
京都大学在学中に「京大ゴミ部」を立ち上げ、ゴミの調査や啓蒙活動を行ってきた浅利先生は、京大エコロジーセンター元館長で漫画家の高月紘先生(PN:ハイムーン)が1980年からスタートさせた京都市内における家庭ゴミの調査にも参加。集めたゴミを約400種類に分別し、そこから暮らしの変化を読み解いてきました。調査によると、40年前にはティッシュや紙オムツなどの使い捨て商品は、分類カテゴリーすらなかったものの、現在では全体の2割以上を占め、さらに増加傾向にあるそうです。そして、封を開けないまま捨てられている食品も多く、フードロス問題の深刻さがうかがえると言います。
また、水分を多く含む生ゴミの重量が大きいのに対して、嵩張るのが容器包装材で、これらのゴミが多いのが日本の特徴でもあるそうです。なかでもレジ袋は、有料化される前は全体の7%を占めるなど、化石資源を原料にするプラスチックゴミの問題は深刻でした。プラスチックからガラス瓶や紙製品への置き換えなども進んでいますが、輸送負荷がかえって増すなどの問題もあり、一筋縄ではいかない側面もあります。さらにマイクロプラスチックによる生態系への影響も近年注視されています。
そんな中、ヨーロッパではプラスチックを用いた製品にはプラスチック含有マークの表示が行われているほか、一定規模以上の店舗では量り売りコーナーの設置義務や家庭でのコンポスト設置義務などの法律が作られる動きがあり、消費者が買い物をする際に環境負荷を考える動機づけになるような取り組みが進んでいます。こういった部分でも日本は非常に遅れており、まだまだ対応の余地があるということでした。
あわせてカーボンニュートラルに向けて重要なポイントとなるのが、かつての大量生産大量消費大量廃棄という一方通行の線形経済からの脱却です。リサイクルに加えてリユースやシェアなどのサーキュラーエコノミー(循環経済)によって資源の効率的な利用や付加価値を生み出していくことが注目されており、例えば焼却処理せずにマテリアル化するための技術革新、あるいは昔のシステムの見直し、そして消費者の意識変容が求められています。
特に意識変容については、日本では2020年に学習指導要領が改定され学校教育にSDGsにつながるコンセプトが加わったことから、若い世代にとってはSDGsを意識することが当たり前の時代になっており、新しい時代を切り開く存在として注目されています。
最後に、「環境への意識と行動をつなぐための製品サービスを考えることは、今後の大きなビジネスチャンスにつながっていく。持続可能な社会、カーボンニュートラルを実現するためにも、技術をうまく使いながら楽しく豊かな世界であってほしい」と浅利先生から期待を込めたメッセージがありました。

講演の後は、5名ずつのブレイクアウトルームに分かれて、アイスブレイクを兼ねてグループ内で自己紹介を行い、翌週のキャンプに向けて交流を図る機会を持ちました。また、翌週のキャンプ本番に向けて直感的に「無駄につながっている、もったいないと感じたモノ・コトを書き出しておく」という宿題が出され、プレミーティングを終了しました。

DAY1 8月3日(木)9:30~17:30

Day1の午前中は、伝統的な京町家での暮らしにヒントを求めて、西陣にある「暮らしの美術館 冨田屋」でのフィールドワークを実施しました。富田屋当主の田中峰子さんの案内のもと 、暑い夏を少しでも涼しく過ごすために工夫が凝らされた京町家のしつらいや、坪庭の役割などについてもお話しを伺い、便利さに頼らずに過ごす心地よさを体験しました。

午後からは、プレミーティングの振り返りと行うとともに、フィールドワークでの学びや感想をA〜Eに分かれた5つのチーム内での共有作業を通じて互いの認識を1つにし、足並みをそろえたところから「幸せなカーボンニュートラル」実現に向けたデザイン・シンキングのセッションに入りました。
デザイン・シンキングのプロセスでは、宿題で挙げた「①直感・共感」した出来事(物事)を出発点として、本当に解決すべき問題は何かという「②問いの立て直し」をグループ内で行い、さらにその問いに対してどんなアプローチが可能かという「③生活者アイデア」を導き出していきます。この際に重要なのは「必ずしも正しいアイデアではなくていい」ということ。「正しいアイデアよりも、広がるようなアイデアを大事にしてください」と井川氏。本来のプロセスではアイデアをもとに最終的にプロトタイピングまで行いますが、今回のキャンプではアイデア出しまでを目標に進めました。

ここからはまず、「①直感・共感」ワークです。いったん個人ワークとして宿題としてメモをしてきたものをポストイットに書き写し、「生活の中で気になったモノ・コト」「以前体験して気になっていたモノ・コト」「体験はしていないが、見聞きしたことがあるモノ・コト」に分類し、思考を巡らせていきます。その後、グループ内でそれらを共有し、KJ法という情報整理手法を用いて共通項を見出して分類をしていきました。
分類作業の中から話題が盛り上がったものを複数ピックアップして、チームごとに「盛り上がった物事」「意見が対立した物事」などについて発表を行いました。

続いて「②問いの立て直し」ワークでは、「1つの事象でも捉え方は複数ある」という発想から、グループ内で共有したテーマを「HOW MIGHT WE…?」(HMW)を用いた「問いの立て直し手法」によって課題設定の可能性を広げていきました。
HMWは、1つの問いを①ポジティブな要素を増幅させる/②ネガティブな要素を削減させる/③悪を善にする/④前提を疑う/⑤形容詞で考える/⑥予期せぬリソースを活用する/⑦ニーズやコンテクストから連想する/⑧原因に正面からぶつかる/⑨現状をすり抜ける、という角度から問い直して問いを強制的に変えていくデザイン手法です。
例えば「ついついレジ袋をもらって捨ててしまう」という問いは、通常なら「貰わないようにしてエコバッグを持ち歩く」(がまん系・やめる系)という当たり前の課題設定になりがちです。しかしそれをHMWで問い直すことで、「どうすればエコバッグを持ち歩くことが楽しくなるだろうか」「どうすれば袋に入れて持ち歩かなくて済むようになるだろうか」とすることが可能になり、議論を前に進めることができます。
ここではグループ内で設定したテーマや問題をHMWで捉え直し、最後に全体で共有をして終了しました。

DAY2 8月4日(金)9:30~17:30

最終日は、本キャンプの目的でもある「アイデア発想」に向けた、「しあわせなカーボンニュートラル」への理解を深めるためのインプットとして、Earth hacks株式会社CEO関根澄人さんから「生活者との共創を軸にした脱炭素マーケティング〜守りの脱炭素から『攻め』の脱炭素へ〜」と題した講義が行われました。
東京工業大学大学院で生物学を専門としていた関根さんは、生物多様性や地球温暖化への関心を深める中で、生活者の意識変化の重要性に目を向けるようになったそうです。卒業後は博報堂から三井物産エネルギーソリューション本部への出向を経て、Earth hacks株式会社を設立、環境問題に取り組んできました。
関根さんによると、生活者に向けた脱炭素サービスは市場が大きいこともあり、欧米では毎週のように生活者向けサービスを提供する環境ベンチャーが誕生しているそうです。一例を挙げると、クレジットカードで買い物をすると、購入した品物がどれだけのCO2を排出したかということが一目でわかり、CO2限度を超えるとカードが使用停止になるサービスなど、発想の転換によって生まれたサービスがあります。一方、日本企業による取り組みは遅れているばかりでなく、海外企業の日本への参入も進んでいないという現状があると言います。
そこで関根さんは、生活者1人ひとりのアクションで脱炭素社会を推進する共創型プラットフォームEarth hacks株式会社を2022年に設立。CO2排出量の削減率を可視化する仕組み「デカボスコア」の提供を開始しました。
日本では環境問題の重要性は浸透していても、一人ひとりの行動にはなかなかつながっておらず、サステナブルを謳った商品を購入することはどこかにダサいとかトレンドの押し売りのように懐疑的な目で見てしまう人が多いのが特徴だそうです。特に、「サステナブルな新商品」というアプローチに対しては、SDGsウォッシュとも言われる矛盾を敏感に感じ取り嫌悪感を持つ人もいます。また、欧米では社会に対する責任感や地元愛からサステナブルへの取り組みを積極的に行う人が多いのに対して、日本ではそれらよりも「得」や「楽」がないと行動に移さない傾向があるそうです。
そこで、アクションを起こしてもらうためには、環境問題を全面に打ち出すよりも、「『美味しい』『楽しい』『嬉しい』と思ってやってきたことが実はCO2排出量削減につながっている」というストーリー作りや、これによってどれだけ環境に貢献しているのかという実感が沸くことが大事だと考えて生み出したのが、「デカボスコア」による見える化です。これは、従来であれば単純に商品のCO2排出量を表示していたものを、「この商品は従来の商品に比べてCO2排出量は何%少なくなった」数値を「デカボ(decarbonization)スコア」として表示することで、貢献度を実感できるようにしたサービスです。
実際に某コーヒーショップでは、従来タンブラーを持ち込むと50円引きで提供していたコーヒーを、プラコップからタンブラーにすることで削減できるCO2排出量が63%(デカボスコア63%off)であることから63円引きに変更したところ、タンブラーを持参する人の割合が増えるだけでなく売り上げアップにつながり、その説明を通じて店員とお客さんとのコミュニケーションも増えたそうです。
現在は約70社120アイテムにデカボスコアの表示が行われていますが、今後採用企業が増えることで購入時の判断基準となり、生活者の脱炭素への取り組みが進むことが期待されているとのことでした。
それ以外にも、フードコートで出た紙コップをトイレットペーパーにリサイクルして同じ店舗で配る催しを開くことで、「自分たちの出したゴミがこのトイレットペーパーになったんだ」という実感を得てもらう取り組みを行なっていたり、約7万人の会員がいるビズリーチキャンパスと協力し、Z世代への啓蒙を進める活動を行っているというお話がありました。

ここまで「しあわせなカーボンニュートラル」を実現するアイデアのための2つのインプットと、①直感・共感、②問いの立て直しワークを行ってきましたが、いよいよ最終プロセスである③生活者アイデアを考えていきます。
そのためにHMWで捉え直したテーマをもとに以下の7つの記述ポイントを参考に企画書づくりを進めていきました。

何をやるか(What)①アイデアコンセプト、②しあわせな体験・生活
なぜやるか(Why)③背景、④つくりたい未来
誰がどう(Who・How)⑤巻き込みたい生活者・企業、⑥実現方法
成長ができるか(Result)⑦期待成果、副次産業

企画書はA3用紙7枚程度に手書きすることを前提に、イラストやチャートを用いながらわかりやすく伝える工夫をして、簡潔にまとめていきます。
具体的にはアイデア名となるタイトル、脱炭素にどういう貢献があるのか、生活者のしあわせ体験をどう作っていくのか、実現するためには誰がどんなことをするのか、それが広がるとどんないいことが実現するのか、というような要素をチーム内で検討していき、最終的にプレゼンを行いました。
プレゼンの際にはグラフィックレコーディングが同時に行われ、発表内容がより伝わりやすい形で表現されました。

プレゼン内容

Aチーム
テーマ:「湯水のごとく湯水が使える家」
要約:「湯船からお湯があふれるくらいのお風呂に入る贅沢を味わいたいけれど、お湯も電気もガスも勿体無いのでできない」というジレンマを背景に、家電から出てくる熱を再利用してお湯を沸かすことで「しあわせな脱炭素」を目指した。家中の家電から出る熱を1箇所に集約して使うことで、外への熱の排出が抑えられ部屋も涼しくなるので一石二鳥である上、排熱をお湯にすることで熱の移動が可能になり、家単体ではなく地域全体、世界全体の省エネにも貢献できるのではないかという提案。

Bチーム
テーマ:「一生もののアイシャドウケース×循環型パレットサービス」
要約:アイシャドウを使い切らないうちに、季節ごとの新商品を買ってしまう人が多いが、その都度プラスチックのパレットや中身がゴミとして廃棄されることに気が引ける。新色を手に入れたときの「ときめき」を大切にしながら、環境にも良い体験ができないか考えて生まれたのが、一生ものになる高級ブランドのアイシャドウケースを用いたカラーパレットのサブスクサービスである。使用済みのパレットを回収するシステムによって、メーカー側は人気色のデータ分析が可能になるとともに、残ったアイシャドウを再利用して新しい色を作り出したり(ときめき)、使いきれないものは防犯用のカラーボールの塗料などにもリサイクルすることも可能になる。

Cチーム
テーマ:「NOスマホ大作戦」
要約:通勤電車内など必要ではないのに無意識にスマホを見ている人は多い。1つ1つの電力は小さくても、大量のスマホによるサーバーの負荷まで考えると消費電力は大きくなる。そこでスマホ中毒者の削減と消費電力の削減を目的に考えたのが、強制的にスマホの電源をオフにして楽しむ電車内でのコンテンツ提供である。通勤時間帯はニュースコンテンツを流すほか、時間帯や曜日、車両によってコンテンツを変更し、スマホを見なくても楽しめる時間を提供する。ライブやアートイベント、トレーニングジムなど多彩な企画を実施することで、リアルを充実させデジタルから離れる工夫を行おうというもの。

Dチーム
テーマ:「街灯かりテラピー」
要約:従来道路を照らすのが主目的である街灯の灯かりを、住宅内に取り入れることで家庭の電力消費を抑えることができないかと考えた。街灯の灯かりを白から暖色に変えることのできるカーテンの開発などを通じて、寝る前の30分間は寝室の電気を消して街灯の灯かりを取り込んでリラックスしませんか?という提案を行う。それによって睡眠の質が向上するなど健康面でのプラスが期待できるほか、家庭の電力消費の抑制が可能で、脱炭素につなげられるのではないかというアイデア。

Eチーム
テーマ:「グランピング DE 夏休み自由研究」
要約:カーボンニュートラルを家族で考えるきっかけとして、子どもと共に夏休みに体験できるテーマを設定した。グランピングに期待するのは「非日常をきっかけにした日常のカーボンニュートラル」の実現である。グランピングで自然体験を通じて五感で過ごす機会を作る一方で、施設側は子ども向けのマイボトル作りや農作業体験などカーボンニュートラルに通じるワークショップを企画し、子どもへの啓蒙を行うことで他施設との差別化を図る。また、化粧品メーカーは女性向けのシャンプーバイキング体験を用意し、マーケティングや宣伝効果を狙う。こういった非日常をきっかけに行動変容につなげることができないかと考えた。

発表後は、自分が生活者としてやってみたいアイデアには赤いシール、脱炭素への貢献やその背景にあるサプライチェーンも含めた効果がありそうだと思えるものには青いシールを貼って、参加者が互いに評価をし合いました。
最後に、井川氏から「2.5日間で体験したプロセスを会社に持ち帰ってもらって今後に活かしてもらいたい」という言葉とともにキャンプの全日程を終えました。

もどる