2015/02/24

「ワークショップデザイン・シリーズ」 vol.4 レポート

デザインフォーラム「ワークショップデザインシリーズ」 vol.4

ライブで生み出される高い一体感。
『デザインしない演劇ワークショップのデザインとは?』
登壇者: 蓮行氏 (大阪大学コミュニケーションデザインセンター 特任講師)
2015年1月24日開催

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さまざまな分野の最前線でワークショップを企画・運営するワークショップデザイナーを招き、設計論や心構え、ノウハウを惜しみなく語っていただく本シリーズ。第4回目は演劇専業集団「劇団衛星」を率いながら、大阪大学・青山学院大学でのワークショップデザイナー育成プログラムで教鞭をとる蓮行氏から「何がワークショップのデザインなのか? 」「何をデザインしないのか?」を披露いただいた。

当日は、劇団代表であり、自身も俳優である蓮行氏ならではの演出が随所に散りばめられた内容に。会場中を縦横無尽に動き回り、参加者たちとのコミュニケーションを活性化。『演劇ワークショップ』の一端を体感できる場となった。

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ゲストは演劇専業集団「劇団衛星」代表で劇作家、演出家、俳優の蓮行氏。小劇場のみならず、寺社仏閣・教会・廃工場など幅広いフィールドで「演劇」を届ける。また、劇団活動と平行して、演劇の社会教育力に着目したワークショップも多数開催。大阪大学・青山学院大学ではワークショップデザイナー育成プログラムで後進の指導にあたっている。


親切であることと、参加後の達成度は比例しない。

ワークショップを企画、運営する際、多くの人がどこまで準備を整えるべきかで頭を悩ませるのではないだろうか。情報の伝え方、スライドの完成度、個別対応にあてる時間など、考えはじめればキリがなくなってしまう。それに対して蓮行氏は少し独自の見方を唱える。

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「親切であるほど参加者の達成度が上がるとは限りません。たとえば、自動車教習所がいい例でしょう。目印が多い教習所内で教官がすべて指示して駐車練習を行うとします。その際、生徒は上手く停めることができるでしょうが、実際の路上では全く役に立つことはありません。ワークショップも同じです。懇切丁寧に紹介することがすべてではありません。時には参加者自身で考え、行動してもらうことも大切です」(蓮行氏)

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講師から参加者へ一方的に情報が提供される「スクール型・講座型」とは異なり、「ワークショップ型」では情報、意見のやりとりが双方向・複方向で行われていく。そこで運営者がすべての答えを用意してしまっては、いろいろな人が参加し、ともに学んでいくワークショップの醍醐味が薄れるというもの。あえて余白を残しておくことも、ワークショップのデザインには必要ということだろう。


ワークショップも、「急がば回れ」。

ワークショップに参加する人はそれぞれさまざまな思いを抱えてやってくる。貴重な休日に自費を払って参加する人と、学校や勤務先からの命令で参加させられている人では、モチベーションに差があって当然だ。ワークショップデザイナーにとって頭を悩ませるのは後者だろう。そうした人たちをどんな手段で乗り気にさせたり、議論に巻き込むか。ここで蓮行氏は「順算と逆算」というキーワードをあげた。

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「順算とは現在地から目標に真っすぐのベクトルを向けて進めるやり方。逆算とは目標に到達するために道筋を考え、手段を追加していくやり方です。人は"あれをしなさい""次はこれをしなさい"と言われても、なかなか前向きな気持ちにならない生き物。目標から逆算しつつ、適当に回り道をしながら進めていけるような「バイパス」をデザインするのが、ワークショップデザインの重要なポイントです。これを「バイパス効果」と呼んでいます。理想は本人にそれと気づかせず、いつのまにか議論に積極的に参加しているという状況をつくることでしょう」(蓮行氏)

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次からは、そのために蓮行氏が開発したゲーム的手法を紹介していく。どれも一見すると本質の議論とは無関係に見えるが、実はすべてがワークショップの質を高めるために大いに役立つことだろう。


偶然のグループをつくるための方法1『歩く&止まるゲーム』

【ルール】
●参加者はスタートと同時に自由に歩き回るが、歩くたびに(想像の)足跡がつく。
●自分の足跡を踏むと、罰が与えられる。
 (罰はモノマネなど、手軽にできて、少し恥ずかしいものを)
●2回手を叩くと、近くの人と2人組になって自己紹介。一度組んだ人とはもう組めない。
●3回手を叩くと、近くの人と3人組になって自己紹介。
●以降手を叩く数を増やし、適当なグループができあがるまで繰り返す。

『歩く&止まるゲーム』では参加者が同じ場所に留まっておくことができず、またいつ手が叩かれるかも予想できない。また、一度組んだ人とは二度と組めないというルールがあるため、知り合い同士で固まることが難しく、偶然のグループをつくりやすいというメリットがある。
「ポイントは"このゲームは2500年前のギリシャ人たちがパルテノン神殿で行っていた演劇ゲームで、それを追体験できる..."など、怪しげ(デタラメ?)なうんちくを最初に披露することです。参加者たちがよく分からないうちに、ワークショップに巻き込んでしまえればこっちのものです(笑)」(蓮行氏)

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机に座って自己紹介するよりも、ゲーム内で行う方が参加者同士が自然に打ち解けられるかもしれない。


偶然のグループをつくるための方法2『○○○と言えばゲーム』

【ルール】
●お題に対して連想するものを、それぞれひとつ挙げる。
●同じものを挙げた人同士でグループになる(グループの人数は均等でなくても可)。
●同じものを挙げていたのにグループになれなかった人は罰ゲーム。

お題の例...好きな果物と言えば? 京都と言えば? 行きたい国と言えば?......など

こちらも『歩く&止まるゲーム』と同じく、偶然のグループをつくりやすいゲーム。ポイントは罰ゲームの設定で、誰もが「絶対にやりたくない」と思う罰にすることで、ゲームへの真剣度が変わってくるのが面白いところだ(今回の罰ゲームは、蓮行氏のひげジョリジョリであった)。
「中にはとりあえず仲間同士で先にグループをつくり、後から口裏を合わせようとする人がいます。そういう場合は誕生月や星座など、自分の意志では変えられないものをお題にするといいですね」(蓮行氏)

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手を挙げながら仲間を探す参加者たち。一気に連帯感が生まれた。


暗黙的なものを解く体験を。『黄道12星座選手権』

【ルール】
●同じ星座同士でグループをつくる。
 (グループの人数はばらついてもいいが、最低ふたり組になるように調整)
●ビーナス役をワークショップスタッフの中から選ぶ。
●「どの星座が高貴であるか」を各グループで話し合い、その内容をビーナスにプレゼン。
●すべてのグループのプレゼン後に、ビーナスが一番を独断で決める。
○話し合いの前に、ビーナスに質問できる時間を設ける。

この日は先の「○○○と言えばゲーム」で星座ごとに分かれたチームでビーナスにプレゼンすることに。事前の質疑応答では「好きなものは芋。欲しいものは家」という情報が提供された。これらを踏まえて各チームは8分という時間制限の中で、アイデア、役割、セリフ、ストーリーを考える。結果的にプレゼンは理詰めで説得するチーム、ユーモアあふれる芝居を披露するチームなど、それぞれのカラーが反映されたものになった。
「たとえば、女性が男性に向かって"大嫌い"と言った場合、文字通り相手のことが嫌いかもしれないし、好きの裏返しで言ったかもしれません。このように表面的な言葉だけでは計れない情報を"暗黙情報"と呼びます。"黄道12星座選手権"では、"高貴の定義は?""芋や家って"など、暗黙的な情報が詰まっています。この情報をチームでどう活かし、合意し、価値を共有するかがゲームの肝。正解の見えないものを知らない人たちと一緒に取り組むというのは、実社会でよくあることです。それを短時間で改めて体験できるようにしました」(蓮行氏)


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ビーナスへのプレゼンは、それぞれのグループでまったく異なる内容に。演劇仕立てで行うグループも。


ルールづくりに参加することの大切さを体感。「件の宣言」

【ルール】
●トランプのマークに合わせて、人数が均等なグループをつくる。
●各グループはテーマに合わせて、それぞれ決まった立場を取る。
 今回のテーマ:一夫一妻制度をどうする?
 スペード:断固堅持 クローバー:中道維持寄り ダイヤ:中道緩和寄り ハート:緩和推進
●各グループで話し合い、どうしてその立場を取るのかを他のグループにプレゼン。
●いろいろなグループが交じるように席替えし、話し合い。
●自由な立場で秘密投票をし、結果発表。

『件の宣言』は直接民主制においてルールづくりに参加することの大切さを体験できる演劇ワークショップ。ひとつのポリシーの下に集まった人同士で話し合い、別の立場を取る人にプレゼンを行い、少しでも多くの票を集めようとするのは、まさに政党の政治活動の縮図だ。
「今回、一夫一妻制度を取り上げたのは、実際に改革するのは困難ながら、離婚率や未婚率、少子化問題などがあって自由な議論が生まれやすいから。子どもたちを相手にこのワークショップをする場合は、"一生どちらかしか食べられないとしたらパンorごはん"や"先生は絶対スーツでなきゃダメor楽な格好でもいい"など、分かりやすいテーマに変えます」(蓮行氏)


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一夫一妻制度を守るか、改革するか。各テーブルで議論が行われた。

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各グループのプレゼン、テーブルでのディスカッションを終えて秘密投票を実施。この日は圧倒的多数で、一夫一妻制度の緩和が採択された。


蓮行流「デザインしない」ワークショップとは?

この日紹介された4つの手法は、蓮行氏が持つ演劇ワークショップ術のほんの一部。実際に蓮行氏がワークショップを行う際には、参加者の表情や雰囲気、残り時間などを読み取りながら、その場で自在に手法を組み替えていくという。

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「もちろん事前情報をもとに、当日のタイムテーブルを周到に組み上げていくのもひとつの手です。しかしながら、今後ますます流動的になっていく社会にしなやかに対応する人、コミュニティをつくっていくかを考えた場合、ワークショップを提供する側も臨機応変に内容をつくり替える力を持つべきである、というのが私のポリシーです」(蓮行氏)

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「デザインしない」とは準備に手をかけないことではなく、たくさんの手法と、それらを自在に掛け合わせられるスキルを磨いておくこと。『バイパス効果』で巧みに盛り上げながら、その場に合わせた手法を次々に繰り出していく。その重要性と効果の高さは、この日の参加者たちの一体感が大いに物語っていた。

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所々で演劇を取り入れた解説を楽しめるのも、蓮行氏のワークショップならではだろう。

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とにかく体を動かすことが多かったこの日のワークショップ。「体験型」「参加型」という言葉がまさにぴったりだ。