Design Innovation Consortium

  • Design Seminars
  • Design Boot Camp
  • Summer Design School
  • Design Forum
  • Open Innovation
  • Fellowship
2017/04/12

「ビジネスデザインシリーズ」 vol.11 レポート

デザインフォーラム「ビジネスデザインシリーズ」vol.11

「グローバルプロジェクトを成功に導く仕事術、組織、人材とは」

講師:今川吉郎氏(元・宇宙航空研究開発機構(JAXA)特任参与/有人プロジェクト独立評価チーム長)
日時:2017年3月29日(水) 17:30〜
場所:京都大学デザインイノベーション拠点(KRP9号館5F)
冒頭、当該フォーラム、並びに今回のテーマ設定に関する貫井先生の主旨説明がなされた。続いて、今川吉郎氏の講演へと移り、更に参加者を交えての活発な討議、意見交換が行われた。

20170329-0014.jpg透明.png

[講演内容主意]

(1)宇宙航空研究開発機構(JAXA)について 
宇宙航空研究開発機構、いわゆるJAXAは、3つの旧宇宙機関が統合して2003年に発足しました。国は、JAXAの所掌業務を「我が国政府による宇宙開発利用を技術面で推進する中核的実施機関と位置付けられ、基礎研究から開発・利用に至るまでの業務を一貫して実施」するものと定義しています。JAXAは、ロケット、人工衛星、地球観測、有人などの宇宙技術分野の他に、航空技術分野も守備範囲としています。私は、JAXAでの最後の業務として有人プロジェクト独立評価チーム長を務めていました。チーム長は、理事長に直属しており、独立評価チームは、プロジェクトから独立した立場でプロジェクトを評価する業務を行っています。
先ず、JAXAの概要についてお話しします。人員数は、NASAが約1万8000人であるのに対して、JAXAは10分の1以下の1545人(2016年4月1日現在)であり、アメリカはDoD(国防総省)まで含めると4万3000人以上の人員を抱えていますから、国全体では実質30分の1くらいになります。また、宇宙予算の規模も、日本はアメリカに比べて、単年度で10分の1以下、過去の累積で30分の1以下です。一方、ヨーロッパの宇宙機関の人員数を見てみますと、フランスが約2400人、ドイツが約7000人ですから、JAXAは少ない人数でよくやっているという感じです。
ロケットの打ち上げ成功率は、ロシア(96%)、ヨーロッパ(95%)、中国(95%)、アメリカ(94%)となっていて、打ち上げ数の多い国は成功率も高い傾向にあります。JAXAは、これらより若干低い94%ですが、主力ロケットであるH-ⅡAおよびH-ⅡBだけを見ると約97%と高い成功率になっています。
90年代以降は、中国やインドが積極的に投資をしていて、2000年を1として予算の伸びを比較した場合、2013年時点で韓国は6倍弱、インドは3倍以上になっています。NASAやESA(欧州)は、成熟していますから余り伸びていませんが、日本だけが減っている状況です。
また、主要な国々の宇宙技術の保有状況を比較してみると、アメリカは有人、無人とも全ての技術を保有していて、ロシアと中国がそれを追いかけているという状況にあります。日本は、実験棟を除いて有人技術をほぼ保有していないという状況で、中国やインドに比べても取り組みが遅れており、今後10年、20年先を見据えると、国際的なポジションの維持は厳しい状況にあると言わざるを得ません。

(2)国際宇宙ステーション計画及び日本実験棟「きぼう」(JEM)について
国際宇宙ステーション(ISS)は、人類が今まで経験したことのない大規模で複雑な有人宇宙施設で、日本、アメリカ、ロシア、欧州、カナダの世界15カ国が協力して軌道上に建設し、2011年に完成しました。両端に太陽電池パドルがついていて、端から端まででサッカー競技場くらいの大きさがあります。中央に欧州実験棟、ロシア実験棟・居住棟、アメリカ実験棟、日本実験棟「きぼう」などが設置されており、高度約400kmの軌道を秒速8km弱で飛んでいます。
日本実験棟「きぼう」は、船内と船外で本格的な宇宙実験ができる日本独自の施設であり、国内約650社が開発に参画しました。他国の実験棟にない特徴としては、自前のロボットアームを持っていることで、これによって船外の実験装置の付け外しは宇宙飛行士が外に出なくても操作できます。それから、船内の与圧環境と船外の真空環境の間で実験装置などの出し入れができるように、自前のエアロックシステムを持っています。
ちなみに、日本実験棟「きぼう」は3回に分けて打ち上げられ、軌道上で組み立てられました。2016年までに延べ10人の日本人宇宙飛行士が滞在(内、延べ7人は長期滞在)してきましたが、今年はさらにもう1人の長期滞在が決まっています。
ISS計画の遂行に必要な有人宇宙技術には、エンジニアリング、宇宙滞在・活動技術、有人運用技術、搭乗員関連技術、輸送技術などがありますが、これらの中にはまだJAXAが獲得できていない技術も多く残っています。例えば、空気や水の再生技術は日本にもありますが、宇宙に持っていける小型のものはありません。そういった技術の獲得が、これからの課題です。
また、宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)は、国家基幹技術として開発したもので、国内約400社が開発や製造・運用に参画しています。日本のISS共通システム運用経費の分担については、「こうのとり」が年に1回程度食料品や実験機器などの物資輸送を行うことで支払うという形をとっています。「こうのとり」は、2011年にスペースシャトルが退役してからは、大型船外機器や船内実験ラックを輸送できる唯一の手段であり、現在はISS全体の運用を支える重要な役割を担っています。

(3)大規模グローバルプロジェクトのマネジメントに求められる仕事術について 20170329-0030.jpg
ISS計画に参加しているのは、主に欧米の国々です。彼ら(ここでは、特にNASAを指しますが)と我々日本人とは、考え方や仕事への取り組み方が異なります。例えば、日本人は堅実な計画を立てます。つまり、実現性の高い要求を設定し、目標コストを定め、それに沿って設計を実施します。一方、NASAは、一見実現不可能なように思われる高い要求でも設定して、推進していきます。駄目なら、途中で幾らでも見直せば良い、という考え方です。これは、できるかできないかを初めから問うのではなく、「フロンティアスピリット」の考え方に基づき、「まずは、チャレンジする」のが当然という取り組み姿勢です。
ISS計画のスタート時点では、日本にはそもそも有人技術がほとんどなかったこともあり、その様な文化の違いの中で、日本人は会議での発言もあまりできず、その存在感は決して高くありませんでした。しかし、日本人は、会議の前などに事前交渉を行って、相手の立場を理解した提案を行うなど、周到な段取りや根回しをNASAなどとの会議でも行っていました。このような取り組みが参加各国の共感を得て、今やISSの世界では、事前調整や根回しをして、場の空気を読みながらみんなで議論して合意形成に向かうという方法が、普通に行われるようになっています。
ISSのように文化の違う国々が参加するプロジェクトでは、「明確なミッションの目的を示すこと」、「チームメンバの役割分担や意思決定の仕組みを予め明確に設定しておくこと」、そして「要求内容をタイムリに見直すとともに、きちんと議論を行って、それを記録に残しながら作業を進めていくこと」が大切であることを会得しました。そういう文化がJAXAの中に浸透した結果、宇宙開発の効率化はもとより、JAXA全体の失敗が減ることにも繋がった、と考えています。
チーム運営のポイントで重要になるのは、作業分担の明確化です。このために必要なこととして、それを契約文書で規定することが第一にあげられます。欧米は契約社会ですから、どんなことにも契約文書があり、文書に書かれていないことを勝手に行ったり、書いてあることを行わないと問題になります。政府間の文書である政府間協定や了解覚書から始まって、現場レベルの文書に至るまで、その遵守が求められ、また、その文書を変える時には、きちんとルールに沿って、然るべきプロセスを経ないといけません。ISS計画における国際間調整の枠組みの例ですが、「運用及び利用に関わる組織」については、MOUの第8条で規定されており、最上位の多数者間調整委員会の下に多くの委員会や会議の場が設けられ、長期計画レベルから実施レベルに至るまでの様々な事柄が調整されています。
また、チームメンバが多くなると、意見がまとまり難くなりますので、意思決定システムが明文化されています。これは、アポロ1号の火災事故を教訓にして、変更管理を迅速に行うために作られたマネジメントの仕組みが現在に繋がっているものです。各技術に関する専門委員会がたくさんあって大変ですが、非常に良い仕組みだと思います。ISSは大規模で複雑なシステムであるが故に、要求をうまく定義して、履行できるものは履行し、見直さないといけないものはタイムリに見直すことが必要になります。このように変更管理をしながら仕事を回していく過程を、「コンフィギュレーションマネジメントプロセス」と呼んでいます。
具体的には、技術的な変更管理や意思決定を円滑に行うため、宇宙ステーション管理会議(SSCB)というプログラムマネージャレベルの会議があり、その下に各国の専門家が参加する大小さまざまな会議が設けられています。例えば、材料で問題があれば、材料・エンジニアリング審査会議(MECB)というところで議論を行います。勿論、ISS全体でこういう材料を使っても良いとか、使ってはいけないとか、このデータベースにあるデータを使いなさいとか、といったことが詳細に規定されています。しかし、そのデータベースのデータが取得された試験条件や規格が実際の材料の使用条件に当てはまらない場合もあり、そのような時には使用可否に関する議論をMECBで実施します。そして、最後はSSCBで結論に導きます。他の技術分野でも同様です。
このような国際システムの中でチーム運営していくためには、異文化(先に紹介したような日本人と欧米人との違いなど)を理解したチーム作りを行うとともに、強いリーダシップのもと、プロジェクトの目標、役割と責任、仕事とチームメンバの関係などを一人ひとりに理解させなければなりません。「きぼう」のプロジェクトチームは、多い時には100人を超えるJAXAとしては大所帯の組織でしたが、当時のJAXAの習慣では、チーム構成員一人ひとりの業務分担を細かく書いたものにして各人に提示することは、一般的には行われていませんでした。しかし、ISS計画では、そのような国際システムに対応したチーム作りを行うためにも、各人の業務を文書化し、全員に配布して、理解の徹底を図りました。
また、良いチームを形成するためには、「議論をする時には、お互いに言いたいことが言えるような雰囲気を作ること」、「その意見に賛成であろうとなかろうと、お互いに理解する気持ちが持てるようにすること」、そして「結論が一旦出たあとは、それが自分の意見と一致していようといまいと、目標に向かって皆が団結して突き進むこと」が重要であり、そのようにプロジェクトを進めてきました。
プロジェクトマネージャに求められる能力は、20代の若い頃は技術能力>仕事統括能力ですが、年齢とともにその比率が逆転していくイメージであり、仕事統括能力が大きな割合を占めていくようになります。これは割合のイメージであって、パーソナルスキルも含めた全ての能力が、年齢とともに幅広く成長することを求められるのは、言うまでもありません。

この項の最後に、国際組織で日本人が活躍するための要件を考えてみたいと思います。
1)いわゆる「阿吽の呼吸」は、欧米人には通用しません。明確に議論をして、それを仕事に反映することが必要です。また、ともすると日本人は「こうでなければいけない」という前提で相手に理解を求める嫌いがありますが、もっと柔軟性を持ち、異なる個人の意見や存在を価値あるものと認めて受け入れることが大切です。
2)外国人のそれぞれの独自性を尊重しながら、世界共通の価値観を持ってリーダシップを発揮することが望まれます。
3)日本人には、周到な事前準備、入念な調査、相手の立場を理解した提案、きめ細かな業務推進など、優れたところがたくさんありますから、自信をもって仕事を進めていけば、存在感が出てきます。

(4)JAXA人生で得た、人材育成に係る持論について 
JAXAの前身であるNASDA時代から、私はいろんな業務を経験してきました。その業務を通して得た教訓を、かいつまんでご紹介したいと思います。

先ず、「人を育てるヒント(今川一家言)」からご説明したいと思います。これは、JAXAの管理職向けに作ったものです。
1)JAXAでは、入って間もない職員でもどんどん責任ある仕事を任せていますが、「非常に難しい仕事は手取り足取り教えるが、少し難しいレベルのものは見守るだけで手を出すな」という考えで対応してきました。自ら背伸びして考えさせることにより、自主性や主体性を育てるためです。
2)JAXAの宇宙機や実験装置などを作っているのはメーカさんで、職員自身が手を出すことはほとんどありません。ですから、職員に必要な資質はものを見る目であり、管理職がものを見る目をいかに養い、その目をもっていかに業務に取組んでいるのかという姿を見せることによって、若手職員に勘所や洞察力を身に付けさせてほしいと考えています。
3)狭い視野でものを考えていると、何のために自分は今この業務をしているのか、この業務の重要なポイントは何であるのか、といったことが理解できません。常に、大所高所の立場で、一般的によく言うのは自分よりも2階級上の立場で、私は理事長の立場でと言っていますが、ものごとを考えることです。そうすると、自分の行っていることが全体の中でどのような意味があるのか、どのように対処すれば良いのか、といった位置づけが見えてきます。
4)野球のWorld Baseball Classicから得た教訓があります。8年前の第2回開催時に日本は連覇しましたが、勝因は監督の采配が良かったからだと言われていました。しかし、私は、単に監督の采配が良かったから連覇できたとは考えていませんでした。チームのメンバ一人ひとりが、今、自分が何を求められているかを考えて、主体的に動いたことが良い結果に繋がったのだと考えています。勿論、指示待ちの姿勢ではいけませんし、何を期待されてそういう指示が出ているのかが理解できないと、本当に求められていることに沿った仕事はできません。
5)われわれの仕事では、設計基準というものを使いますが、その基準の多くはNASAから得た知見に基づくものです。しかし、例えば「最大荷重の2倍に耐えるように設計すること」という基準があって、それがJAXA職員の常識になっていても、なぜ2倍なのかという根拠は設計基準には書かれていません。ですが、重要であるのは、なぜ2倍なのかということであって、それを理解していなければ、想定外の事態に対応できる応用力は身につかず、本来の生きた仕事はできません。そのことを若手職員に理解させるために、あえて多くの謎かけ(問いかけ)をして、常識の後ろにあるものを考えさせるように、と言ってきました。
6)基本動作をきちんとするということは、非常に重要です。例えば、私たちが書いた文書は、内輪だけに止まらず、外の方にも見ていただくことになることがよくあります。ケースバイケースですが、そういったことをも想定して、若手職員には常にきちんとした日本語で文書を書かせるように、指導してきました。
7)笑いは、緊張をほぐし、頭の回転を高める作用があります。私は、いつも職場に微笑みが満ちているように、出来るだけ努力をしてきました。また、私は、これまでいっぱい部下を叱ってきましたが、基本的には人は褒めて育てるようにしてきましたし、叱るときもがみがみ言わないように意識してきました。そういう中でこそ、人は育ちます。
8)失敗しても最後は上司に責任をとってもらえる、という安心感の中で部下が仕事をできるように、上司は心掛けなくてはなりません。そうでないと、若い人が積極的に、主体的に業務に取り組めなくなります。
9)JAXAの場合は、ワンフロアの大部屋ですので、ひそひそ声にしなければ、話は筒抜けです。しかし、先輩同士や上司同士の会話をわざと若手職員に聞かせることで、会話の中の一言が仕事のヒントになったり、考え方へ影響を与えたりする場合もあり、情報収集の勉強にもなります。
10)すでにお話ししたように、JAXAはメーカではありませんので、ものを触る機会が余りありません。そのため、意図的にものに触れられる機会を若手職員に作るように努力しました。ものを触る感触を身体に覚え込ませることが、質の良い仕事を行うことに繋がります。
11)重要なことで同じような間違いを繰り返す職員の場合、反省文を書かせることも重要です。書くことで頭の中が整理できますので、間違いの根本原因が的確に理解でき、適切な改善が行えるからです。
12)知見を共有するとともに、後進に引継ぐためには、書いたものにして具現化し、記録に残すことが重要です。可能であれば、写真や動画に残すと、さらに良い記録になります。

次は、技術系社会人の方に向けた教訓の中から、重要なものについて抜粋でご紹介します。
1)ヒューマンエラーは、どのような場でも必ず起こります。ですから、必ず起こるという前提で、できるだけそれを起こさせないという工夫を常に心がけないといけません。
2)メールは、同報性という点では便利ですが、やはり直接話をすることが真意を伝える上で重要です。また、直接の会話を行うことにより、部下が抱えている課題を知ることができた、ということもあります。私は、度々部下のデスクを回って声を掛けるようにしていましたが、「これがなかなかうまくいかなくて」といった課題の相談事が始まるきっかけになったことをよく経験しました。

最後は、学生さんに今のうちから心がけていただきたいことについて、こちらも抜粋してご紹介します。
1)先ず、解析結果は手計算で当たりをつけることです。コンピュータで解析して尤もらしい結果が出ると、その結果を盲目的に信用してしまいがちですが、本当にそれが妥当なのか否か、手計算で当たりをつける習慣を身につけて頂きたいと思います。大規模な解析はコンピュータで行う必要がありますが、手計算の結果と大きな差異があれば、どちらかが誤っている訳ですから、原因究明と是正処置を行う必要があります。このように、実感を伴う手計算で大規模解析の妥当性を確認することで、不具合の未然防止が図れるのです。
2)人的ネットワークを大切にして下さい。学会などに行っても、日本人には静かに聞いて静かに帰って行く人が多いですが、懇親会等に参加して交流を深める、あるいは講演の合間に講師をつかまえて質問を行うなど、自ら進んでネットワークを作る努力を行うことが重要です。そのようにネットワークを構築して、常にアンテナを張ることで、いろんな情報が入ってくることになり、大きな財産になります。
20170329-0033.jpg透明.png20170329-0046.jpg