Design Seminars

「Professional Design Camp 007」レポート


想定外に対処する社会デザイン 〜その時、わが社は何をする?〜
開催日:2020年10月22日〜23日
会場:オンライン
参加人数:19名

2020年、世界で新型コロナが蔓延し、私たちの生活スタイルは大きく変わりました。地震や豪雨のような天災や感染症の発生に限らず、今後私たちが想定していないようなできごとはますます起こり得るでしょう。そのような「想定外」が起こったとき、企業はどのような行動を起こし得るでしょうか。
7回目となるプロフェッショナル・デザインキャンプは、新型コロナの拡大という想定外のできごとを受けて、初のオンライン開催となりました。NPO法人「場とつながりラボhome’s vi」荒川崇志さんと山本彩代さんをファシリテーターに迎え、19名の参加者たちがZoomによる画面共有を通じて行った「未来デザイン」によるアイデア発想で、「想定外」に対処する方法を考えました。

Day 1

そもそも「想定外を想定する」ということは、自己矛盾した設定でもあります。しかし、「想定外」のことが起きたときに、自社ではどのような対応が必要であり、可能であるかを考えておくことは、今後ますます重要になってくるでしょう。そのことから今回のキャンプでは、大きく3つの目的が設けられました。

  • ・想定外の社会で私たちが「何をするか」についてアイデアを⽣み出す体験する
  • ・集合知によって新たな価値を創造するプロセスを体験する
  • ・異業種でのコラボレーションのきっかけをつくる

2日間のキャンプでは、参加者それぞれの知見・視点・発見を生かし合い

  • ・ 自分たちにとっての想定外のできごとを探索(1日目)
  • ・ 想定外が起こったときに、望む未来に向けてのアクション(ビジネス)アイデアを考えるシミュレーションをする(2日目)

ところをゴールに設定しています。

さて、今回の「想定外を想定する」ために用いる手法は、未来デザインがベースになっています。未来デザインには、①未来を考えるための思考プロセス整理する順番を決め、叶えたい未来を実現する方策立案を行う、②思考プロセスの整理にはワークシートを活用し、プロセスで紡ぎ出されるストーリーを大事にする、③プロセスを通して、外的側面(現状・未来)と内的側面(意味)を結びつけ、内発的動機を高める、という特徴があります。

本来、未来デザインの基本プロセスは、【理念】→【現状把握】→【未来予測】→【要所解明】→【方策立案】、という流れに沿って進められますが、今回は、「自分たちがどういうことを実現したいか」ではなく、外部要因が多い「想定外」がテーマであることから【①前提】→【②想定外】→【③社会の状態】→【④方策立案】→【⑤実現に向けた行動】、という流れにカスタマイズした上で、「未来デザインシート」を用いながら体験していきました。この日のために用意された「未来デザインシート」は合計5枚(プラス宿題)です。

「未来デザインシート」記入のポイント

それぞれのシートを埋めるときには、
  • ・前のシートを踏まえて、ストーリーを大事にする
  • ・はじめから落とし所を考えない
  • ・他者とやることでの相乗効果/影響・観点の獲得などを大事にする

実際のアイデア出しの作業は、Zoom内で3〜4人のグループに分けられたブレークアウトルームを用いて行われました。まずは事前に配布されていた宿題(A:2020年までの社会・業界・自社の動き/B:今後こうなると予想される良い未来の状態、について各自記入)の共有をグループ内で行い、他の参加者の背景や課題などについて理解しました。

①前提の探究

いよいよ未来デザインのプロセスに入ります。まず、私たちが今持っている「前提」について考えることからスタート。前提を知ることがなぜ大事かというと、未来の想定は、現在私たちが持っている価値観(当たり前/前提)から生まれるものであり、想定外を見たり対応したりするときは現在の価値観を手放したり反転させたりする必要があるからです。つまり私たちが現在持っている当たり前の価値観を再認識するための作業です。
そのために用いる手法が「ブレインストーミング」です。再度ブレークアウトルームに分かれてブレストをすることで、社会や業界、所属先が持っている当たり前の価値観(前提)を探していきます。ブレストをする際には自分の「未来デザインシート1」の画面をグループ内で共有し、書き込みながら進めていきました。

ブレストのコツ

  • ・どんなアイデアもポジティブに受け入れる
  • ・⾃発的に盛り上げる
  • ・質より量、思い付き⼤歓迎
  • ・大きな声で発表する

→ブレストが機能すると時間の経過とともにアイデアの質が変化!
〈普通のアイデア〉→〈笑えるアイデア〉→〈イノベーティブなアイデア〉

続いて、上記の前提・当たり前の内容を見ながら、想定外(前提の外にある新たな前提)は何かについて再度ブレストをしてシートを埋めていきます。さらに、そこで出したものから「未来に向けて注目する必要がある新たな前提」を個人作業で考えていきます。作業の手順としては、シート上の「当たり前でないこと」をABCでランク付けをし、Aランクから4つ選んで右の欄へ書き込み、さらに想定外を考える上で注目する「新たな前提」をその中から選んで右下部の緑の欄に記入します。

②想定外を探る

次に①でそれぞれが注目した「新たな前提」を生み出す要因(想定外のできごと)を探る作業を行いました。手順は以下の通り。

  • 1. 1枚目のシートの右下に書いたことを、2枚目の「注目する新たな前提」欄に書き写す
  • 2. ブレインストーミングで想定外のできごとを探究する
  • 3. 3人1組で順番に、メンバー全員分の想定外を探究する
  • 4. 自分のテーマでブレストをしているときは、「未来デザインシート」を画面共有し、「新しい前提を生み出す要因」欄に書き込みながらワークを進める

ブレストでは想定外のできごとが出てくるようにしっかりと発想を飛ばすのがポイント

ここからは個人作業です。まず、「新しい前提を生み出す要因」の中から気になる度合いの高いものを選んで「注目する想定外のできごと」欄に書き込みます。続いて、「想定外が起きたとき社会はどのようなことが発生するか」を考えます。これはホワイトペーパーによるアイディエーション法(今回はホワイトペーパーではなくシートの右下の部分で)。内省的に静かに考えることで考えを引き出す作業です。書き出したものの中から自分が特に注目するものについてはチェックを入れておきます。
次は、「想定外が起こった社会に潜む問題」を探っていきます。想定外のできごとがHappy/Unhappyな社会の状態を考え、3枚目のシートの上部に書き込みます。
注意したいのは「問題」には2種類あるということ。(1)技術的な問題:専門家の力で技術的に解決できる問題と、(2)適応を要する問題:当事者の思考や認知の変化(を伴う適応)が必要な問題、です。
「問題の本質」が(1)と(2)のどちらなのかを見極め、適切なアプローチを取らなければなりませんが、そのアプローチ方法には、大きく分けて3種あるそうです。

【解決する】原因を取り除く、低減するアプローチ:達成すれば効果大、時間やコストがかかる、長期化すると無力感に囚われやすい

【解消する】問題を再定義する、精錬するアプローチ:着手が早い、認知の変化が必要、当事者だけでは難しい、時間がかかることも

【共存する】問題に反応する、放置するアプローチ:時間が解決することも(簡単に言うと「慣れ」)、コントロールが困難、長期化すると問題が根深くなることも

※すべての問題を解決する必要はなく、そのときにできる対応を選択することが大切

「問題」へのアプローチを考えるにあたっては、横松宗太先生(京都大学防災研究所巨大災害研究センター)に災害リスクマネジメントの視点から「災害リスクの軽減と分散、社会ネットワークを通じたシェアリング」について、川上浩司先生(京都大学大学院情報学研究科)には「不便益システムデザイン」についてお話しいただき参考としました。

防災経済学を専門とする横松先生によると、自然災害の規模が年々大きくなり費用も拡大するなか、「有限なお金をどれだけ防災に充てて、どれだけを災害後に被災者保障や復興に使うかという配分の問題が議論されるようになってきた」中でリスクマネジメントの範囲もまた拡大変化し、リスクコントロールやリスクファイナンスの重要性も高まってきているということについて、具体的な例や数値とともに解説がありました。

また、川上先生は「工学における使命は『便利で豊かな社会』の実現であり、不便とであることは害だと考えられている。しかし便利であればいつでも『益』というのは本当にそうなのか」という疑問から、「不便だからこそ新しい発見があったり喜びを感じたりするケースも存在する」という「不便益」論を展開。実際にデイケア施設で取り入れられている「バリアアリー」などの実践例を挙げながら、不便だから価値がないわけではなく、そこから価値を呼び起こせる「積極的に不便を使って楽しむ」というアプローチ法についてお話がありました。

以上の情報提供を受けて、自分が設定した「想定外のできごと」「社会の変化」「社会に潜む問題」に対してどのようなアプローチが考えられるか。再度グループで話し合い、最後に「今日の個人まとめ」として、「今日、私がわかったこと・気付いたこと」「私が持ち帰ること」を記入して1日目を終了しました。

Day 2

2日目は騙し絵を使ったオープニングからスタート。絵に何が隠されているか、どれだけの数が隠されているか。これは自分が物を見るときの癖を知ることで、その後のものの見方に広がりが出てくるというレッスンの一環だそうです。

さて、この日のゴールのイメージは、「想定外が起こったときに、望む未来に向けてのアクション(ビジネス)アイデアを考えるシミュレーションをする」という部分。「想定外が起こったときの社会の状態」について、「最高の状態」と「最悪の状態」に振り切って考え、最後に「望む未来への方策とアクション」として「最高の未来を作る方策」と「最低の未来を阻む方策」を考えていきます。


③想定外の社会

ここからは、想定外が起こったときの「Happyな社会の状態」と「Unhappyな社会の状態」を光景としてイメージしていきます。そのために用いるのが「フューチャーコラージュ」の手法。Webサイトから写真や⾔葉を選んでキャプチャーで切り取り、シートの「Happyな社会の状態」と「Unhappyな社会の状態」のスペースにコラージュしていくというもので、コラージュの材料は直感で選び取るのがポイントだそうです。コラージュが完成したら、その内容を「○○が○○になっている」という形で言語化する作業を行います。
コラージュの手法を用いたのは、言葉で表現した瞬間に大事なものが切り落とされてしまう可能性があるからですが、いったんイメージとして視覚化してから言葉に変換することで、大事な部分の抜け落ちを避けることができるのだそうです。言語化するときには、「質感」を大事にすることがポイントになります。
ここからは、再びブレークアウトルームに戻って、コラージュと言語化したシートをペアで画面共有しながらお互いにフィードバックを受け、さらにブラッシュアップしたのちに「未来デザインシート4」の上部に書き込みます。

④方策立案

ここまでで、HappyまたはUnhappyな社会の状態が具体的にイメージできたのではないでしょうか。そこで次はこのHappyを実現するための方策を考えていきます。方策は個人でできることでも会社が事業として行うことでも良く、まずは個人で、その後グループディスカッションをして、共有とフィードバックを行いました。
フィードバックを踏まえて「最高の未来を実現するために取り組む方策」をブラッシュアップし、5枚目の「未来デザインシート」左側、「そのためのアクションは?」の欄に「最も効果的だと思うもの」を記入しました。
Unhappyにならないための方策についても同様のプロセスを経て5枚目のシートに「最悪の未来を阻むための方策」から「最も効果的だと思うもの」を記入しました。

⑤実現に向けた行動

いよいよラストプロセスである、望む未来を実現するために必要な5つのアクション(実現に向けた行動)を具体的に考えてシートに書き出して「未来デザイン」が終了します。ここでは社内で実際に取り組む場合のシミュレーションを兼ねていることもあり、グループワークではなく個人ワークとして行われました。

「未来デザイン」のプロセスを体験しながら、「想定外の未来」を想定した2日間。そもそも自分たちがどういう状態を目指したいのか、何をしたかったのか、という着地点がないと未来へ向かっていくことは不可能です。荒川さんは「今後どのような『想定外』が起こるかは分からないが、『想定外』に出会ったときにどのように状況にアジャストしていけるか。そのスピードを上げていくためのトレーニングになったのではないか。筋トレをするように、その日々の積み重ねが『想定外』が起こったときに役立つと思う」という言葉で2日間のプロセスをまとめました。

また、参加者からは 「デザイン思考を取り入れることで発想のスピードと深度を上げることができた」
「最高と最低をイメージする中で、最低の方がイメージしづらかったことが自分でも驚きだった。そもそも最低のイメージを考えていなかったという気づきがあった」
「理念や前提に立ち返ってから今後のことを考えると、発想が広がるということがよくわかった」
「自分が想定できる範囲の狭さを実感した。専門が異なる人と話すことで、想定できる範囲を広げることができると感じた」
「フューチャーコラージュではイメージを可視化して言語化することの大切さや、アイデアの取りこぼしがなく理解が深まることがわかった。部署に持ち帰って業務に活かしたい」
「未来デザインの手法が面白かったので、忘れてしまわないように定期的に振り返りをする機会を自分で持ちたい」
「ブレストをする中で新たな気づきや発想の観点を得られた」
「リモートワークが続いていたので、フィードバックをいただくことの嬉しさに気づいた」
「自分の考える癖がソリューション、技術寄りであることに気づいた。共存するという新しい解決手法も役立てたい」
など、新しい発想や視点、プロセスに触れたことを積極的に役立てたいという前向きなコメントが寄せられるとともに、参加者間で連絡先の交換などの交流も行われました。

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