Design Innovation Consortium

  • Design Seminars
  • Design Boot Camp
  • Summer Design School
  • Design Forum
  • Open Innovation
  • Fellowship
2016/08/03

「ビジネスデザインシリーズ」 vol.9 レポート

デザインフォーラム「ビジネスデザインシリーズ」vol.9

「2030年を展望する 〜求められる四次元企業への転身

講師:嶋本 正氏(株式会社野村総合研究所 取締役会長)
日時:2016年6月30日(木)開催
冒頭、石田先生の挨拶、続いて当該フォーラム、並びに今回のテーマ設定に関する貫井先生の主旨説明がなされた。そして、嶋本取締役会長の講演へと移り、更に参加者を交えての活発な討議、意見交換が行われた。

20160630-0006.jpg透明.png20160630-0043.jpg

◆2030年を考えるにあたって
 昨年創立50周年を迎えたNRI(野村総研)では「2030年の日本」プロジェクトを立ち上げ、①社会、②政策・企業、③金融、④産業、⑤ICTといった5つの分科会それぞれが、2030年の日本について考えました。
 それでは、なぜ2030年を取り上げたのか。それは、21世紀に入ってからの15年間を振り返ってみると、非常に早い速度で世の中に変化が起こりました。今後15年はさらに早い変化があると考えられます。そこで、2030年の世界はどういう姿になっているか、またはなりたいか、どういう心構えで臨むべきなのか、ということについて議論しました。
 NRIでは毎年「未来年表」というものを作って、①政治・社会、②経済・産業、③国際の分野別に起こりうる50年先までの未来を予測すると同時に、戦後から現在までに起こったことを記しています。この年表から、近年の大きな変化が見えてきます。
 まずひとつが、1998年の「日本版金融ビッグバン」があります。これは金融制度改革へと進展してきました。次いで、2000年に介護保険制度が始まり、いよいよ少子高齢化が迫ってきたことがうかがえます。さらに、DDI、KDD、IDOが合併してKDDIが発足したのも2000年です。2001年以降ファイナンシャルグループが立ち上がり、都銀は3つのグループに再編されました。いわゆる企業再編の流れです。2005年には京都議定書が発効され、2011年には東日本大震災が起こり、自然エネルギーへの注目が高まるようになりました。それからICTが進展し、クラウド、ビッグデータ、IoT、AIなどの言葉が日常的に聞かれるようになりました。国際関係については、ユーロの流通が始まり、G7からG8やG20へ拡大し、世界が一緒になって物事に取り組もうという雰囲気が醸成されてきました(ただし、ここに来て、G7回帰やEU離脱が発生)。その一方で15年後の日本は、人口減少、マイナス成長、医療・社会保障、ICT・ロボットなどのキーワードが浮かんできます。新興国では成長が続き、2030年の世界人口は90億人を突破すると予測され、環境問題やエネルギー問題がますます注目されるでしょう。

 ◆NRIの「2030年の日本」プロジェクトより20160630-0018.jpg
 さて、そのようななかで先に紹介した5つの分科会では分野別に「2030年の日本」に関する次のような検討結果を導き出しました。
①社会:「成熟」から「変革」へのシフト
②政策・企業:ローカルハブ(地方)とメガリージョン(大都市)
③金融:FinTech=破壊的なイノベーション
④産業:サイバー・フィジカル・システム
⑤ICT:RINコンピューティング(NRIによる造語)
 1つめの「社会」については、現状のままでは晩婚・非婚化による出生率低下と少子高齢化、労働人口減少、消費力低下、貧困者率上昇といった"負の連鎖"が無限ループに陥っていくと考えられます。この悪循環をなんとか食い止めないといけません。また、現在の日本は成熟した国であり、公共も民間も図体が大きくなっています。本来なら、ベンチャー企業やICTを糸口にして現状を変えていかないといけませんが、かつての成功体験から抜け出せないためにリスク回避をしてしまう傾向があります。また、リソースがあるために自前の力でやっていこうとします。これは成熟した社会が陥りがちな罠ですが、ここから脱却していかないといけません。あるべき方向とは、大規模ではなく専門性と機動性をもった「小規模」集団、リスク回避ではなく「リスクテイク」。そして、自分たちの力だけではなくまわりとの「連携(open)」が必要になっていきます。小回りの効く組織にするためには、機能を分散化して組織自体を小さくする必要があります。とはいっても共通して持つべき機能もあるわけですから、それを集約してプラットフォーム化を進めていく必要があります。しかし分散化すると組織としての効率が悪くなるので連携が求められます。今後はこれをどのようにやってしていくのかが課題です。
 2つめの「政策・企業」については、現在でも大きくなる一方の大都市と、さびれる一方の地方都市というように二極化しています。政府は「地方創生」を推進していますが、大都市への依存度は非常に高く、国が地方に対して補助金を出している構造のままではさらに二極化が進むと考えられます。それを解消するためには、メガリージョン(世界のグローバル都市)としての大都市とローカルハブとしての地方都市の道筋をつけることです。たとえばドイツのレーゲンスブルグは人口13万人ほどの小都市ですが、BMWの研究開発拠点があり、自動車関連の中小企業をはじめベンチャー企業、大学などが集まっています。他にも人口十数万人レベルの都市が自立して、グローバル都市として成り立っています。日本もこのような特色のある地方都市を目指せば、まだまだ発展していくことができるのではないでしょうか。
 3つめの「金融」分野では金融機能のアンバンドリング(分解)が進むと考えられます。これまで「融資」「決済」「運用」などの金融機能を1つの組織が担っていましたが、これをバラバラにして個別に購入・契約できるようになります。そういったなかでSquareやGoogle、Apple Payなどの新規参入プレイヤーが登場し、その流れの中からFinTechという破壊的イノベーションへと展開するものと思われます。ビッグデータ、クラウド、AI、ブロックチェーン、IoTといった技術を使いながらイノベーションは進んでいくでしょう。FinTechは金融庁でも関心が高いキーワードになっていて、銀行や証券会社でも「金融イノベーション支援室」「FinTech」といった名前の部署が作られています。しかしながら、ここから具体的にどんな新しいサービスが生まれているのかというとまだこれからというレベルです。ただし、破壊的イノベーションとなりうる大きな可能性を秘めていると考えています。
 そして4つめは「産業」分野です。ロボットによる自動車製造や3Dプリンターの進化、また、シャーレのなかで牛肉が培養されたり、神経信号を感知して作動する義手が作られたり、といった技術も生まれています。センサーの発達によって膨大なデータを収集して(ビッグデータ)、モノのデジタル化、ネット化(IoT)が進み、その情報(ビッグデータ)を分析して傾向を見極め、AIなどによって高度な判断と自動制御を行い現実世界での保守やサービスに生かすというものです。この一連の流れをサイバー・フィジカル・システムと言いますが、サイバーはネットやバーチャルな世界、フィジカルはリアルな世界で、これらが融合したサービスが間違いなく出てきます。しかしこれも現段階では、何かができそうだとはなっていても、利益を生み出す具体論になるところまでは至っていません。
 最後の「ICT」におけるRINコンピューティングについて、お話しします。RINというのは琳=「光り輝く美しい玉」という意味を保たせたNRIの造語です。ICTは冷たいものではなく、企業の活性化や人を幸せにすることに寄与するITと定義づけました。Rはリアルワールドで、IoTやセンシング技術などを介した実世界がデータとして入って来きて、リアルとの接点が多くなることを意味します。Iはインテリジェント化、まさにAIのことで、システムがインテリジェント化して、従来は人間がやってきたことをAIが代替していくと思われます。Nはナチュラルユーザーインターフェースのことで、人間とシステムがあたかも人間どうしのやりとりのように自然になっていくだろうということです。また、Iに関して、人工知能やロボットなどに代替されてしまう職業がどのくらいあるのか、オックスフォード大学のオズボーン准教授らと共同研究を行いましたが、それによると、日本では601職種が代替可能であり、労働人口の割合では49%に達するという結果になりました。
 以上、5つの分野で「2030年の日本」を検討してきましたが、これらのキーワードをまとめると、「①成熟と構造変化」「②二極化」「③ボーダレス化」「④デジタルエコノミーの勃興」4つが浮かび上がります。そんななか、私たちは自己変革によって時代の変化に対応する必要があります。

◆四次元企業を目指して
 以上の考察をもとに、2030年、目指すべき企業の形態を「四次元企業」と呼ぶことにしました。
 四次元企業とは何か。企業における従来の経営資源は「ヒト・モノ・カネ」であると言われてきました。そこでは、「情報(データ)」は3つの重要な経営資源を助けるための手段という扱いです。しかし今後は、「情報(データ)」もまた、経営資源のなかで「ヒト・モノ・カネ」と同じくらい、場合によってはさらに重要になるかも知れないととらえています。「情報(データ)」を活用することによって企業の強みを格段に強化して異次元のサービスや製品を提供する企業のことを四次元企業と定義しました。
 すでにそういう動きをしている企業例としてあげられるのが、ライドシェアのUBERや民泊のairbnbです。とくにUBERは創業からたった5年で時価総額8兆円を超え、アップル(30年)やグーグル(7年)よりも圧倒的な成長スピードを見せています。従来であればUBERのようなモデルは、他の企業がやろうと思ったらできてしまうものでした。類似事業が存在可能で、スイッチングコストが低く、顧客にとって乗り換えが簡単です。しかしながらUBERは新しいサービスを次々と投入し、他社よりも早い展開を行っていて、それが顧客を惹きつけて味方に付けています。顧客から「情報(データ)」を得ながらサービスを提供している、まさに「情報(データ)」で勝負をしている会社です。UBERやairbnbは、先ほどあげた「2030年の日本」のキーワードにも重なることがわかります。
 つまり、①成熟した既存ビジネス(タクシー/宿)の隣に脅威となる新しいビジネス(UBER/airbnb)が誕生している:成熟と構造変化。②グローバルに通じるビジネスでありながら、個別のミクロのニーズにきめ細かく対応している:二極化。③生活者が事業者にもなり得る新しい役割分担(境目の変化)が発生:ボーダレス化。④ネット、クラウドがなければ成り立たないという点で、まさにデジタルエコノミーの寵児:デジタルエコノミーの勃興、というわけです。
 そう考えると、四次元企業は企業のモノづくりやサービスに、経営資源としての「情報(データ)」を融合させてより高度なものにしていく企業であると考えられます。それによって新しい産業が生み出され、新しいサービスが生まれます。実際に自動車産業ではさまざまな形で四次元企業が生まれています。1つは先ほどもあげたUBER。2つめは、自動車メーカーでありながら、カーシェアリングサービスをスタートさせたダイムラー。3つめは、もともとソフトがメインのサービス産業だったのが、自動運転車という高度なサービスを実現したテスラモーターズ。4つめはグラフィック技術を自動車の世界に持ち込んで、自動操縦に関わるソリューションとして非常に力を持っているエヌビディア。これらはいずれも「情報(データ)」を使って自分の枠を広げていく企業です。同じように、金融ならFinTech、小売は「情報(データ)」を使ったマスカスタマイゼーション、製造業はIoTやサイバー・フィジカル・システムを現実のものにしていくことで四次元企業になり得ます。農業分野ではスマートファームという取り組みも始まっています。このような先駆け的な取り組みを、どういうようにして本当の四次元企業にしていくかというのがこれからの課題でしょう。
 今後、企業が新しいビジネス、サービスを作っていけるかどうかは、経営資源である「情報(データ)」をいかに活用していくかにかかっています。また企業の中のリソースを活用するだけでなく外部とシェア、連携することが必須になってきます。ここで躊躇していると何も生まれません。成熟したままストップしてしまって、変化が生まれないのです。まさに、四次元企業に向けた挑戦が始まりつつあります。

20160630-0020.jpg透明.png20160630-0010.jpg