2015/05/26

「ワークショップデザインシリーズ」vol.5 レポート

デザインフォーラム「ワークショップデザインシリーズ」vol.5

より良いゴールを目指すために。
『ワークショップで問うべき「問い」をデザインしよう!』
登壇者: 安斎 勇樹氏 (東京大学大学院 情報学環 特任助教)
2015年4月25日 開催

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さまざまな分野の最前線でワークショップを企画・運営するワークショップデザイナーを招き、設計論や心構え、ノウハウを惜しみなく語っていただく本シリーズ。第5回目となる今回は、「ワークショップをデザインすることとは、『適切な問いを立てること』と言い換えてもいいのではないでしょうか?」と語る安斎勇樹特任助教(東京大学大学院 情報学環)にご登場いただいた。

当日は、安斎氏が研究するワークショップデザイン論の一端をのぞきながら、実際に「問い」を立てるまでを実践。参加者一人ひとりが「そもそも良い問いとは何か? 」「問いの良し悪しをどうやって評価するのか?」について見つめ直すきっかけとなった。

image2.JPG ゲストは安斎勇樹特任助教(東京大学大学院 情報学環)。ワークショップデザイン論(企画・運営・評価の方法論)の体系化を目指すかたわら、教育の現場や地域、企業など幅広い分野でワークショップを企画・運営している。共著に「ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ」(慶応義塾大学出版会)、「恊創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる」(藝術学舎)。



ファシリテーションの基礎はプログラムデザイン。

ワークショップファシリテーターを経験したことがある人なら、一度は「なかなか思うように議論を進められない」というジレンマに陥ったことがあるのではないだろうか。

ワークショップの主催、運営においては当然、当日の『ファシリテーション』が重要な役割を果たす。しかしながら、ファシリテーションが偶然に任せて行われるべきものではないことは、本シリーズでも多くのゲストが触れてきた通り。安斎氏も同様に、設定したゴールに向かうため、そして参加者たちの満足度を高めるためには、事前の『プログラムデザイン』の重要性を説いた。


「当日のファシリテーションが上手くいかないときは、事前に設計したプログラムが"型"として機能していないことがほとんどです。たとえばその場で問いをさらに深めたり、問い方を変えたりといった、熟練したファシリテーターが行う即時的な働きかけは、想定していたプログラムを高速でリデザインしているのに等しいと言えます」(安斎氏)


良いプログラムデザインができないと、良いファシリテーションは生まれない。プログラムデザイン論は、ファシリテーション論の基礎となるということをぜひ覚えておきたい。

ワークショップの基本構造は「導入」「知る」「創る」「まとめる」。

今回のメインテーマである「問いの立て方」に入る前に、まずはワークショップの基本構造をおさらいしておこう。
【1】導入:趣旨説明などのイントロダクションと、参加者たちの緊張をほぐすアイスブレイク。
【2】知る活動:講義、観察、意見共有など、メインワークのための知識習得。
【3】創る活動:個人やグループで話し合い、何かを創りだすメインワーク。
【4】まとめ:プレゼンテーションと意見交換。


「ワークショップの種類はたくさんありますが、シンプルに構成要素をまとめると上の4つになるでしょう。メインワークのための「種まき」にあたる【導入】や【知る活動】も重要ですが、特に【創る活動】における"問い"の設定が、ワークショップの成功に最も大きな影響を与えます」(安斎氏)

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ワークショップの基本構造について話す安斎氏。各ブロックで適切な問いを投げかけることが大切だ。


短期・中期・長期。"問い"には評価スパンがある。

ここでこの日の参加者たちに、「良いと思う問いの特徴」「悪いと思う問いの特徴」をそれぞれポストイットに書き出す作業をしてもらった。

出てきた内容は実にさまざま。良いと思うものには「ひとひねりが加えられているもの」「ある程度の制限があるもの」「身近に共感できるもの」などが、悪いと思うものには「答えがひとつしかないもの」や「あらかじめ答えを想像できるもの」、「当事者意識になれないもの」などが挙げられた。


「問いを評価するのって、難しいですよね。どうして難しいかと言うと、実は問いにはそれぞれ"評価スパン"というものがあるからなんです。たとえばなぞなぞのように答えがパッと分かればスッキリするような問い。これは「短期的に効果がある」問いですね。また、科学者たちが何年も研究してやっと答えが見えてくるような問い。これはなかなかスッキリしませんが、何十年と経ち成果が上がれば評価される「長期的に効果がある」問いと言えます。このようにひと口で"問い"と言っても、評価する時間によって、良い・悪いの基準が変わってきます。ワークショップのプログラムデザインで"問い"を設計するには、この評価スパンの違いを意識するようにしてください」(安斎氏)


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参加者たちにこれまでに出会った問いや、ワークショップ参加経験を思い出してもらいながら、「良いと思う問い」「悪いと思う問い」を書き出してもらった。






【短期的に効果がある問い】
参加者の好奇心を刺激し、興味を引きつけられる問い。数秒から数分で効果を期待できるもの。
【中期的に効果がある問い】
好奇心を引くだけでなく、数十分から数時間をかけて対話や議論を重ねる価値があり、議論を経て学びが深まったり、アイデアが生まれるようなもの。
【長期的に効果がある問い】
数日から数年かけて答えを探しつづける価値があり、さらに長期的に社会に良い影響を与える問い。また、目先の利益や問題解決だけでなく、その領域に及ぶ影響も考慮されることが望ましい。たとえば、子ども向け携帯電話の開発であれば、「子どもに売れる」だけでなく、学校や家庭での関わり方にまで考えが向けられているようなもの。

ワークショップのプログラムデザインにおいては、短期・中期・長期すべてに効果があるような問い設定するのが一番だが、ひとつの問いですべてをカバーするのは至難の業。そこで、安斎氏はこれらを組み合わせてプログラムを立てることが成功の近道であると語る。


「ボクシングでたとえるなら、ジャブ、ストレート、ボディブローを重ねるようなもの。短期・中期・長期に効果的な問いを散りばめることで、参加者を惹き付け、議論を深め、その後にも影響するワークショップをデザインすることができます」(安斎氏)


また、先ほど参加者たちが挙げた「良いと思う問いの特徴」「悪いと思う問いの特徴」を「評価スパン」という視点で見てみると、参加者からは「悪いと思っていたけれど、長期的に見ると良い問いなのかもしれない」「本来、長期的に効果がある問いを、短期的に答えを出そうとするから違和感があるのかもしれない」といった意見も聞かれた。

評価スパンを意識することで、その問いの良し悪しだけでなく、投げかけるタイミングが適切かどうかも見つめ直すことができると言えそうだ。

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書き出した問いを「評価スパン」という視点で並べてみると、「悪い」と思っていた問いもタイミング次第では「良い」問いに変化。








問いのデザインを実践形式で体験。

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ワールドカフェをのデザインを体験する参加者たち。各テーブルで個性的な問いがたくさん生まれた。

この日の後半戦は、ワールドカフェ形式のワークショップのデザインを通して、問いの立て方を実践することに。参加者たちには次のようなテーマが与えられた。
『動物愛護団体から、"動物との関わり方"について考えを深められるような大学生向けのワールドカフェの企画を依頼されました。ワールドカフェを3ラウンドで構成するとした場合、どのような問いが適切でしょうか?』
このテーマに対して、参加者たちは4〜5名のグループに分かれて議論。短期・中期・長期という評価スパンの視点に立ったワールドカフェのデザインが、合計で8タイプでき上がった。
次に、この中から実際にワールドカフェを行ってみるために、2タイプを選出することに。選出方法は「多数決」と「多様決」、ふたつの方法が用いられた。

●多数決:賛成票を最も集めたもの。
●多様決:賛成票と反対票のかけ算で最も数が多かったもの。


「多様決はアーティストである私の父が考え出した採択方法で、物事を決めるときは賛成ばかりではなく、賛否両論に分かれるものを選ぶ方がクリエイティブな解を選びやすいのではないかという考えを取り入れたものです。ポイントはかけ算であること。あまりに無難なものだと賛成票ばかりか、反対票もゼロという結果になってしまうので、多少リスクがあっても尖ったものを出した方が選ばれる確率は高くなりますね」(安斎氏)

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「賛成」は赤シールで、「反対」は青シールで投票。「多数決」と「多様決」、二通りの方法でアイデアが選出された。


最後は多数決と多様決で選ばれたふたつのワールドカフェを、参加者同士で体験する場となった。ファシリテーターは各ワールドカフェをデザインしたメンバー。それぞれ3つのラウンドを通して、活発な議論が行われた。
ワールドカフェ終了後には、「思ったより議論を誘導するのが難しかった」(ファシリテーターを務めたメンバー)、「同じ意味なのに2つの言葉が使われていて、少し混乱した」(ワールドカフェ体験メンバー)など、さまざまな意見が。
このように実際に問いをデザインできても、それが機能するかは別問題。そんなときにはぜひ、デザインした問いをテストする機会を設けよう。製品プロトタイプのように、試し、課題を見つけ、改善を繰り返すことで、問いがよりブラッシュアップされていくはずだ。問いが機能していないことを、参加者に正直に問うてみることも有効だと、安斎氏は語る。「なぜこの問いは不適切なのでしょうか?」と参加者の違和感の原因を探ることによって、その場でより良いワークショップへとリデザインされることにつながることもある。
問いをデザインすること。それは、当日のファシリテーションを円滑に進めるだけでなく、ワークショップ全体の成否を握る鍵でもある。短期的に効果のある問いで惹き付け、中期的に効果のある問いで深める。そして、長期的に効果のある問いで、ワークショップのその後まで考えを継続してもらう......。評価スパンの異なる問いをつなぎ、しっかりと吟味することで、どんどん核心に迫っていけるということを、この日の参加者たちは実感できたのではないだろうか。

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ワールドカフェのファシリテーターは、選出されたアイデアを考えたメンバーが務めた。

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ワールドカフェは3ラウンド方式。問いを少しずつ深めながら、テーマに合わせた議論が行われた。

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デザインした問いが適切かどうかを判断するには、実際に第三者たちに試してもうらうのがおすすめ。